| Introduction 序盤アウトライン: |
| メキシコと米国の国境、外資企業の工場が立ち並ぶフアレスと云う街で若い女性行員が次々に殺害される。シカゴの新聞社で働くやり手の女性記者ローレンは、実はメキシコ人として辛い過去を持ちながらも現地に赴くが、やがて、かつての同僚で反体制派の新聞社を営むディアスに協力を要請する最中、レイプ殺人から奇跡の生還を果たした少女エヴァに出会う。そんな中、一連の事件の容疑者としてエジプト人が逮捕されるが、同様の事件も後を絶たぬ状況に違和感を覚えたローレンは、エヴァの証言を頼りに真相究明に乗り出すのだがーー |
| Various Note メモ: |
| これまで数百体の遺体が発見される中、一連の被害者総数も推定で5千人にも及ぶと云う未曾有の連続殺人事件を基にする社会派サスペンス。北米自由貿易協定を背景に当該各国のさまざまな思惑も浮き彫りに。脚本と監督は「エル・ノルテ 約束の地 (1983)」「デスティニー 愛は果てしなく (1988)」「ミ・ファミリア (1995)」「フリーダ (2002)」のグレゴリー・ナヴァ(Gregory Nava)。撮影は「アーバン・カウボーイ (1980)」「卒業白書 (1983)」「メジャーリーグ (1989)」「17 セブンティーン (1997)」のレイナルド・ヴィラロボス(Reynaldo Villalobos)。スコアは「あなたが聞こえない (1993)」「フロム・ダスク・ティル・ドーン (1996)」「リディック (2004)」「プラネット・テラー in グラインドハウス (2007)」のグレーム・レヴェル(Graeme Revell)。 |
主演は「ザ・セル (2000)」「Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス? (2004)」「世界で一番パパが好き! (2004)」「エル・カンタンテ
(2006)」のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)。主な共演は「私が愛したグリンゴ(1989)」「ペルディータ(1996)」「ストリーターズ
(2001)(未)」のマヤ・サパタ(Maya Zapata)、「レジェンド・オブ・メキシコ デスペラード (2003)」「レジェンド・オブ・ゾロ
(2005)」「レッスン! (2006)」のアントニオ・バンデラス(Antonio Banderas)、「アメリカン・プレジデント (1995)」「ボビー
(2006)」「ディパーテッド (2006)」のマーティン・シーン(Martin Sheen)、「1492・コロンブス(1992)」「ダンス
オブ テロリスト (2002)(未)」「ローマン・エンパイア(2003)(TV)」のファン・ディエゴ・ボト(Juan Diego Botto)、「蜘蛛女のキス
(1985)」「ミラグロ/奇跡の地 (1988)」「痛いほどきみが好きなのに (2006)」のソニア・ブラガ(Sonia Braga)など。フジテレビの「とくダネ!」にも出演した人気シンガーのフアネス(Juanes)も顔を出す。
以下、完全ネタバレ。未鑑賞の方はご留意下さい。 |
| これは、メキシコ国境沿いのフアレスという街でのレイプ殺人事件を下敷きにするフィクションだが、いわゆる創作のパートは登場キャラが織り成すドラマとしての筋立てを指すもので、発見された遺体の数で400体前後、推定では5000人にも及ぶとされる犠牲者の数や事件のバックボーンについては、製作側に言わせれば「事実」との事。何れにせよ、関連性も示唆される殺人事件で5000人の犠牲者と云うのも天文学的な数字で、かつてはサッカーのW杯開催をも担った近代国家ではあり得ないようにも思えるが、まず、事実と謳われるバックボーンの推察なくして一連の数字を荒唐無稽と切り捨てる事も不可能だろう。 |
| ここでの場合、メキシコと米国の隠蔽工作の背景については、「安全を保障するより黙っていた方が安上がり」と云うヒロインのダイアローグで代弁されるが、その実これもかなり分かり難い。と云うより、これは事件の核心を意図的に避けるある種の妥協も見え隠れする所。実際、被害者遺族に対する慰謝料や労働者の安全を確保するための経費などを捻出する事になれば、その数も恐らくは万単位の労働者なのだから、巨額の損金が避けられないのも事実だが、それにしても、ここまで大規模な殺人事件の隠蔽工作の口実としては説得力がない。ただ、飽くまでこの作品は、ある一定数の事実を基にするフィクションに他ならないもので、全世界に向けての配信やメディアリリースも控えていた1本。クランクアップに至るまでの「各方面」からのさまざまな障害をケアする意味でも、事件の核心をまことしやかに描く事も周知のタブー。 |
| ついては、飽くまで推察に頼らざるを得ない核心部分だが、「北米自由貿易協定 (NAFTA)」と云う名の奴隷協定の真実を目の当たりにすれば、導き出される答えも自ずと絞られる。ちなみに、日当も僅か5ドルの超低賃金で24時間シフトの労働体制、しかも免税扱いの1000にも上る外国企業が叩き出す純利益となれば、恐らくは、フアレスに進出する企業だけでも、当該各国の国内総生産のグラフに微量ながらも色分けできるような額面にもなるはずだが、そもそも国内企業を圧迫するような不条理な協定が結ばれるのも、不当に搾取できる労働力がメキシコから提供されるために初めて成立する話。ついては、免税で得をするはずもないメキシコ政府が、なぜ労働力と土地を提供できるのかと云う辺りにここでの問題も絞られる。まぁ、証拠なくしては如何なる推察も空想絵巻に等しい訳だが、平たく言えば、ここでの核心とは当該各国が企業サイドから秘密裏に手に入れる天文学的数字のキックバックに他ならないもので、外国企業からの税収枠も優に超える裏金をゲットできるメキシコはもとより、国内経済の変動にも左右されぬ埋蔵金のような性質の虎の子をストックできる米国にとってもこれ以上のおいしい話はないはず。国内企業の顔色を伺うのも二の次で、とどのつまりは国家経済の安定こそが政権政府の生命線となる訳だが、そんなバックボーンを潤せる莫大な裏金が動いているとすれば、前代未聞の犠牲者を数える一連の事件が封印される事にも個人的には納得させられる。 |
| ただ、ネットでも繋がる今の世の中、独裁的な北朝鮮やミャンマーとは全く異なるメキシコを舞台に5000件ものレイプ殺人が発生する中、捜査機関や天下の司法までもが足並み揃えてダンマリを決め込むと云うのも、やはりあり得ないように思えるが、これは、理不尽な協定の切り札ともいえる圧倒的な労働力を提供するメキシコ側で発生する事件で、その経済をも左右する莫大な裏金をもたらすキーパースンが事件に深く関与する人物であれば、司法や捜査機関の追従もある種の必然。ちなみに天文学的な数字の犠牲者については、遺体が発見された400名前後も「別件」扱いで処理される中、推定5000人の内の他の犠牲者もそれぞれに行方不明者扱いだった訳だが、仮にこれらの事件を約10年間で平均すれば、遺体が発見されたケースについては約10日に1件の「別件」の事件で、行方不明扱いのケースも1日に約1.3人が行方不明者になったと云うもの。恐らくは万単位の貧困層の若い労働者がひしめき合う工業地帯だが、そんな背景を踏まえれば、先の数字もあながち天文学的なものとも言えなくなる。 |
| 一方、協定による莫大な裏金を手にするだけの米国にとっては、一連の事件に頭を悩ませているのも確かな所。事件さえなければ、穏便に分配される裏金で潤うだけだが、低賃金の労働力を切り札にするメキシコ側がさまざまなイニシアティヴを持つ以上、米国は黙っているしかない。まぁ、一連の推察が的を得ているかどうかなど知る由もないが、何れにせよ、タブーにも踏み込んだこの作品は立派の一言。直接的にはメキシコ政府が抱える問題には他ならないものの、仮に一連の推察が真実に肉薄するようなものであれば、これは対外的な政策を土台にする米国最大の人道上のタブー。ちなみに米国では、08年1月のDVDプレミアを除けば、劇場での公開も一切実現していないが、メディアの配信も着実に加速する今後、アムネスティなどを経由する世界各国からの声に新政権は一体どのようなリアクションを取るのだろうか。まぁ、莫大な裏金が流通する以上、一連の状況が劇的に変化する事もあり得ない訳だが、そんな政府はさて置き、良識的なシンパによる受け入れの態勢が世界数箇所でも整えば、極悪犯の個人レベルでの制裁を後押しするのも確か。そもそもの話、政府レベルでの裏金の流通にはレイプ殺人などは必要とされてはいないもので、犯行一味を除くメキシコの協定関係者らもレイプ殺人など望んでいるはずもないので。 |
| 真実の報道も叶わぬ中、タブーを解禁した本タイトルだが、ヒロインのロマンスや活劇調の脚色については、これは致し方のない所。と云うより、多少のドラマ性なくしてはメディアのリリースも水の泡。巷では、荒唐無稽な記事をネタにリアリティにも欠ける内容などと酷評されていたりもするが、ハッキリ云えば、演出を始めとするここでのカメラワークやスコア、キャストのパフォーマンスはその全てが一流のスキルで、洗練された映像はまさしく第一線級。ジェニファー・ロペスを筆頭にアントニオ・バンデラスやマーティン・シーン、挙句には超人気シンガーのフアネスまでもが安値で出演するキャスティングだが、そんなメンツの心意気もこのプロットならでは。ドラマティックな脚色については、確かにジェニファー・ロペスの濡れ場などではネタがネタだけに唖然ともさせられるが、要はこの辺りも含めてリリースが実現したと云う事。事件を再現する描写にも根拠がないと云うなら、現実のレイプ殺人と云うものを想像してみればいい。ちなみに凶行の再現を試みるのもここでは僅かに1回だけだが、現実のそれは推定で5000件。根拠もヘチマもないだろう。作品のトーンについては、フランチェスコ・ロージのような路線を期待した方々もいたと思うが、ここではそもそものバックボーンを推し量るべき。犯罪組織の顛末を描くならともかく、ここでは2つ以上の大国がつるんで隠蔽するネタを扱っているのだから。 |