| Introduction 序盤アウトライン: |
| 米国から帰国して間もなかった兄の消息を追う佐川圭子は、恋人の高木浩と共に長野県の奥深い山中に厳かに建つ野々村邸を目指していた。兄の和彦が婚約者の野々村夕子のもとを訪ねた数日前から消息を絶っていた事に不審を抱いていた圭子だったが、その道中の給油所で二人が偶然聞かされた話は、夕子が半月前の落石事故で既に他界していたと云う驚愕の事実だった。やがて、和彦は帰宅したと語る夕子の母親・野々村志津の態度に違和感を覚えた二人は、夕子の墓に程近い草むらに血糊の付いた和彦のカフスボタンを発見、その真相を探るべくエンジントラブルを装う事で野々村邸での一夜を迎えるのだがーー |
| Various Note メモ: |
和製ホラー史にその名を刻む「血を吸う」シリーズ第一弾。チェンバロとオルガンのデュオによる冒頭スコアも印象的なオープニングだが、その全編を貫くゴシック調の映像は、山本迪夫監督のサスペンスフルな演出手腕も相俟って凡庸な西洋ホラーの追従には終わっていない。驚愕の表情に終始する松尾嘉代さんと若かりし日の中尾彬さん(キンキの剛くんのようにも見える)はもとより、後年、芸能界から政界に進出を果す若きイケメン時代の中村敦夫さんや怪気炎上げる高品格さん(二作目にも登場)など主要キャストの熱演も忘れられない。取り分け中でも印象に残ると云えば、死の淵を彷徨い歩く女殺人鬼を演じた小林夕岐子さんのヴィヴィッドなパフォーマンス。その印象は世紀を越えた今もなお新鮮なもので、あのエレガント且つ鬼気迫るキャラクターは、最高の特撮メイクを当たり前とする昨今までのホラージャンルに於いても他の追従を許していない。
以下、ネタバレ含みます。未見の方はご留意下さい。 |
| 山本監督のインタビューによれば、決定版とも云えるショッカー作品を一度は撮りたかったと云う山本監督が、ドラキュラ指向だったと云う製作の田中文雄さんに説き伏せられる形で着手したホラー篇だったと云う事で、その原案は山本監督自身と脚本の長野洋さんで練り上げたものだったらしい。催眠術をかけられた男が、死を直前にしながら苦しみながら生き永らえると云うエドガー・アラン・ポーの「ヴァルデモア氏の真相」(後年、ジョージ・A.ロメロが「マスターズ・オブ・ホラー」のエピソードで映像化)をモチーフにもするシナリオだが、劇中のスクリプトでも明確に言い放たれる「催眠術」と云うキーワードに固執すれば、正直、かなりの困惑を余儀なくされる。 |
| 催眠術を掛けられた事で肉体をも甦生させた女性が殺人鬼として甦る中、最終的には、その催眠術を施した黒幕の人物(町医者/実の父親)が絶命する事で、その甦生させられていた女性殺人鬼の方も肉体もろとも滅び去ると云う結末を迎える訳だが、通常、催眠術などではボロボロの骨折状態で全身打撲状態の肉体を甦生させる事など不可能で、仮に、フレッシュな肉体のままで死に至った人物を催眠術で甦らせたような場合でも、催眠術を施した人物の絶命と共に、その施された側の人物が絶命したりはしないもの。思うにこれは、「催眠術」と云うより、ハイチでの土着的なテイストにも類似した「黒魔術」的なモチーフだったと解釈すべき所で、ブードゥーの呪術師が絶命する事でその犠牲者への呪いも解かれると云った作品も60-70年代には幾つかあったように記憶している。 |
| もしくは、毒牙に掛けられた翌朝までの間にそのホストを退治すれば感染を防げると云うヴァンパイア作品のモチーフを引用していたとも考えたい所。絶大な人気を誇る和製吸血鬼トリロジーのシリーズトップを飾る作品ながらも、その実、ここでのシナリオに吸血鬼が登場していない事など誰もが知る所だが、宇佐美淳さんが演じる山口医師をホストたる吸血鬼(コテコテの人間なんだけど)に見立てれば、岸田森さん演じるヴァンパイアの絶命に伴い一次感染していた犠牲者の女性(主人公の妹)も絶命すると云う後年のシリーズ第2弾「呪いの舘/血を吸う眼」でのクライマックスとその光景は何ら変わらないものになる。親玉吸血鬼の絶命に伴い子分吸血鬼も絶命すると云う解釈などは用いない西洋のヴァンパイア作品だが、その感染を未然に防ぐ為のデッドラインを儲けると云うモチーフに派生するここでの「黒魔術」的な親分子分の関係やその末路を描くモチーフは、斬新且つ非常に明快なものだったように思えてならない。何故ならば、通常のヴァンパイア作品では全ての犠牲者についてのその後が明確にされていなかったりするからである。 |
| 吸血行為を示唆する「血を吸う人形」と云うタイトルだが、殺人鬼の青年が犠牲者の断末魔を収めるカメラを指して「血を吸うカメラ」としていた過去作品での邦題の前例を引き合いに出せば、人形のような殺人鬼が血を求めて彷徨い歩く事を指して「血を吸う人形」とするここでの邦題には違和感もない。むしろ、小林夕岐子さん演じる殺人鬼キャラのイメージを具現化するそのタイトルセンスは傑出していた印象すらある。その全てが印象的だった小林さんの登場カットだが、中村敦夫さん演じる婚約者の肩口に手を回してナイフをかざす序盤でのカットと、ケジメをつけるクライマックス直前で見せる鬼気たる表情は、取り分けスペシャルだったと云える。 |
| 小林夕岐子さんと云えば、東映東京の「新網走番外地」シリーズや日活の「丹下左膳」シリーズなど280作品を超える邦画に出演した水島道太郎さんと、20本の劇場長編にも出演した元宝ジェンヌの山鳩くるみさんを両親に持つ女優さん。実はこの話も、DVDのコメンタリー音声で確認した事だが、そんなご両親を持つ小林さんながらも、実はその女優への道程も約束されたサラブレッド的なものなどではなく、大学受験を目指しての代々木のゼミに通っていた十代の頃、知人からの推薦に応える形で東宝俳優養成所第6期生としての門を叩いたものだったとの事。特別な思い入れなどなくとも作品に懐かしさを感じる方であれば、DVDに収録された小林さんのコメンタリー音声にはググッと来るものがあるはず。 |
| その公開当時、交通事故で他界した女性が吸血鬼として甦る「怪奇大作戦」のTVエピソードを真っ先に連想させられた記憶があるが、ここでの小林さんに施された特殊メイクは、あの「怪奇大作戦」に登場していた女吸血鬼のゴアな特殊メイクとは一線を画した洗練されたもの。あの殺人者の人格を象徴する金色の瞳は、金色に塗りたくられたコンタクトを着用すると云う特殊効果だったもので、コンタクトは普段から着用していた為に然程の負担にはならなかったと語る小林さんだが、あの色塗りで分厚かったと云うコンタクトは完璧に視覚を奪うもので、相手役のキャストを目の前にしても実の所は何も見えていなかったらしい。野々村邸に鳴り響くすすり泣きの声も小林さんがご自身で収録したもので、長時間の無理を強いられたと云う録音現場では酸欠状態になったと云う逸話も。劇中唯一とも云える笑顔で登場するカット(走り寄る小林さんと中村敦夫さんを捉えたショット)は駒沢公園でのロケで、野々村邸の外観を捉えたショットは、目黒区の柿の木坂でのロケだったらしい(オープニングに登場する邸の全景は特大のセット)。 |
| オカリナの音色と美人なお姉さん(酒井和歌子さん)が不可解な受難に相次いで苛む姿が印象的だった「悪魔が呼んでいる」との併映で見た作品だが、洋画ホラーの2~3本立てと云った経験はあったものの、同じ目色の日本人が登場する邦画ホラーとサスペンスと云う2本立ては、小学生だったその当時には計り知れない衝撃だった。シリーズ第2弾の「呪いの舘/血を吸う眼」や第3弾の「血を吸う薔薇」は、劇場での鑑賞から久しい90年代にもVHSソフトで何度か鑑賞していたが、シリーズ第1弾の本作は劇場公開から30年以上もの歳月を経てのリリースとなったDVDボックスを購入しての2度目の鑑賞だった。このサイトでは、管理人本人がチラシを所有する作品のみを紹介している為に、このトリロジーについてのレヴューはアップ出来ずにいたが、この三部作の映画チラシなるアイテムの存在なども確認出来ずにいた中、DVDボックスに宣材ポスターのレプリカ(以下にもイメージ画像のリンクあり)が梱包されていた事から掲載に踏み切ってみた。その当時のポスターデザインも殊更懐かしいものだったが、イラスト仕様のDVDパッケージも極めて秀逸。小林さんのコメンタリー音声や宣材ポスターのレプリカ(裏面では故・山本監督のインタビューが掲載)など特典も嬉しいDVDだが、特筆すべきは、リマスターされたと思われる綺麗な画像とヴィヴィッドな音声。三部作のファンのみならず邦画ホラーのファンであれば、外せないアイテムだと思う。 |