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Breaking the Waves
奇跡の海
(1996)
 Denmark / Sweden / France / Netherlands / Norway 159min.
Introduction 序盤アウトライン
北海油田の労働者ヤンと結婚したベスは、周囲からの心配を他所に幸福の絶頂に浸っていた。ところが、新婚生活を満喫する間もなく、夫のヤンが油田に戻ってしまった為に、ベスは一日千秋の想いで夫の帰りを待つ事になってしまう。やがて、ヤンの帰宅を一週間後に控えていたベスは、その帰宅が一日でも早まるようにと神に祈りを捧げるが、あろう事か、時同じくして油田で事故が発生、その渦中にいたヤンが全身麻痺の重症患者として病院に搬送される。一日でも早く夫が帰宅するようにと祈りを捧げたベスにとっては、その願いは叶えられながらも、実に不本意な形での結果だった。やがて、意識を取り戻したヤンは、女ざかりのベスが自分の為に犠牲になって欲しくないと願うが故に、愛人を持つようベスを説得する。純粋な愛を貫く健気なベスが、素直に愛人を持つとも考えられなかったヤンは、「その愛人との行為を自分に話す事によって二人の愛を証明出来る」と説明するが、そのヤンの話を、ナチュラルな感性で聞き入れてしまったベスは、あらゆる男達との無機質な肉体関係を繰り返すようになってしまうーー
Various Note メモ
原題の意を汲めば特に違和感もない「奇跡の海」と題されたこの作品だが、実は、そのシナリオから訴え掛けられる意図にもフィットしていないように思えて仕方がない。何故ならば、一神教の信仰が持つ矛盾点を痛烈に批判したとも思えるシナリオとは相容れないタイトルだからである。クライマックスの展開が主人公の自己犠牲の行為に対する「神が起こした奇跡」だと説明するのであれば、そもそもの油田での事故は、何故起きたのかと云う事になってしまう。それは、最初から彼女を奈落の底に突き落とす為に仕組まれたものだと考えざるを得なくなってしまうもので、複数の男たちに肉体を蹂躙された挙句に、ナイフで切り刻まれて絶命すると云う残酷な試練を乗り越えなければ、鐘の鳴る天空の世界にいる正体不明のキャラクターには迎え入れられないのかと云う理不尽な感覚に囚われるからである。
夫の帰りを待つだけの主人公が、唐突な事故の知らせに仰天、超自然的な力を持つ何者かが「お前の犠牲的行動の代償として夫の命は助けてやろう」と云ったシュールなモチーフが挿入された短絡的なファンタジー路線の作品とは、ここでの様相はまるで違うもので、主人公が、夫の帰宅を祈願した自分に非があると事態を歪曲してしまう所から始まると云う屈折した物語である。トリアーが「神の奇跡」を描きたかったのであれば、あの主人公の葛藤を描き出したモノローグも存在していなかったはずで、これは、先述の理由による大きな矛盾を生み出す要因にもなってしまうからである。
あの鐘の鳴る最終カットやそのタイトルだが、この「神の奇跡」を賛嘆しているようにも思えてしまうモチーフについては、むしろ、自身の祈りによって事故が起きたなどとは歪曲せずに、夫の介抱に専念していれば、夫婦共々に円満なクライマックスを迎える事も出来たはずと云ったパラドックス的なシニカルな意図が込められていたような気がする。その事態を「善と悪」の二面性だけで割り切ろうとするが故に苛み、自己主張の正当化の為に赤ん坊までを惨殺してしまうと云う後年の作品「ドッグヴィル」でも全く同様なのだが、神と云う偶像を崇めて事態を歪曲して解釈するが故に、究極の悲劇を迎えると云う主人公が描き出されたこの作品は、主人公の墓も掘らせぬプロテスタント信者の排他性を描写したシークエンスなどと併せて考えても、一神教信仰への盲信に対する強烈な警鐘をトリアーが打ち鳴らしているようにしか思えないのである。
「神の名の下」に繰り広げられてきたあらゆる宗教戦争、そして昨今の混乱を生み出す要因となっている「キリストvsイスラム」「イスラムvsヒンズー」と云った構図などもそうだが、人間のエゴイズムを正当化する為に、都合良く「神」と云う偶像を盾にしていると云った背景にこそ、その諍いの根本的な原因が存在し、大いなる矛盾を生み出しているのである。
戦争をすれば人が死ぬ。「殺人」と云う行為は神の教えなのかと聞けば違うと言う。彼らが云う所の神が説く「善と悪」の二面性で物事を解釈する一神教の教えでは、戦争での殺人などは、守るべきものを守る為の「必要悪=善」と割り切る以外にその選択肢はなくなってしまう訳である。人間の生命と、その行動は「善と悪」の二面性で割り切れるような単純なものではなく、一つ一つの行動には、良し悪しなどでは説明の出来ない理由がある訳である。「善と悪」の哲学しか持ち合わせていなければ、その土壇場を迎えてしまったような際には、自己以外の全てを「悪」として認知せざるを得なくなってしまうもので、相手を攻撃する時に「神」を語れるのなら、死にも等しい致命的な被害を被ったような際に「神」と呼ばれるものに責任転嫁出来るのかと云う事になってしまう。
主人公ベスの姿を通して描かれるこの偶像崇拝への懸念は、中世の時代、偶像崇拝を大義名分に、未曾有の凶行と大殺戮に及んだエゴイストたちによる「魔女狩り」にも共通する大きな危惧への警鐘と云った印象である。鐘の打ち鳴らされる最終カットについては、妄信的ではありながらも純愛を貫いたベスの身を呈しての献身ぶりを描いたシナリオをブチ壊してしまうかのようなシュールな印象に尽きるものだが、それを敢えて挿入する事によって、シニカルなメッセージとしていたのではないだろうか。
1996年度、監督のトリアーは、カンヌ国際の「審査員特別グランプリ」、セザール賞 の「外国映画賞」、全米批評家協会の「監督賞」、NY批評家協会賞の「監督賞」、そして「ヨーロッパ映画賞」をそれぞれ受賞。主演のエミリー・ワトソンは、ヨーロッパ映画賞の「女優賞」、LA批評家協会賞の「ニュー・ジェネレーション賞」などを受賞。



製作スタッフ
Staff
関連作品 (抜粋)
Related Works "excerpts"
脚本と監督
Written & Directed by
ラース・フォン・トリアー
Lars von Trier
ヨーロッパ Europa
キングダム Riget (tv)
ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the Dark
ドッグヴィル Dogville
製作
Produced by
ヴィベク・ウィンドレフ
Vibeke Windeløv
ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the Dark
しあわせな孤独 Elsker dig for evigt
ドッグヴィル Dogville
ピーター・オルベク・イェンセン
Peter Aalbæk Jensen
製作総指揮
Executive Producers
ラーシュ・ヨンソン
Lars Jönsson
ショー・ミー・ラヴ Fucking Åmål
リリア 4-ever Lilja 4-ever
撮影
Cinematography by
ロビー・ミューラー
Robby Müller
* 手持ちカメラでの撮影
ダウン・バイ・ロー Down by Law
バーフライ Barfly
ミステリー・トレイン Mystery Train
デッドマン Dead Man
編集
Edited by
アンデルス・レフン
Anders Refn
キムと森のオオカミ(未) Ulvesommer
美術
Production Design by
カール・ユリウスン
Karl Juliusson
ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the Dark
衣装デザイン
Costume Design
マノン・ラスムッセン
Manon Rasmussen
ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the Dark
ドッグヴィル Dogville
挿入曲
Various Music
In A Broken Dream - Python Lee Jackson
Hot Love - T-Rex
Child In Time - Deep Purple
Suzanne - Laonard Cohen
Virginia Plain - Roxy Music
All The Way From Memohis - Mott The Hoople
He's Gonna Step On You Again - John Kongos
Whisky In The Jar - Thin Lizzy
Whiter Shade Of Pale - Procul Harum
Goodbye Yellow Brick Road - Elton John
Cross Eyed Mary - Jethro Tull
Siciliana - J.S. Bach
キャスト
Cast
配役
Plays
関連作品 (抜粋)
Related Works "excerpts"
エミリー・ワトソン
Emily Watson
Bess McNeill ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ Hilary and Jackie
ゴスフォード・パーク Gosford Park
ステラン・スカルスガルド
Stellan Skarsgard
Jan Nyman レッド・オクトーバーを追え! The Hunt for Red October
ウインズ Wind
カトリン・カートリッジ
Katrin Cartlidge
Dodo McNeill ネイキッド Naked
ノー・マンズ・ランド No Man's Land
フロム・ヘル From Hell
ジャン=マルク・バール
Jean-Marc Barr
Terry 戦場の小さな天使たち Hope and Glory
グレート・ブルー Le grand bleu
ヨーロッパ Europa
エイドリアン・ローリンズ
Adrian Rawlins
Dr. Richardson レボリューション・めぐり逢い Revolution
愛と野望のナイル Mountains of the Moon
ジョナサン・ハケット
Jonathan Hackett
Priest 遠すぎた橋 A Bridge Too Far
スピリット 傷だらけの栄光(未) The Big Man
サンドラ・ヴォー
Sandra Voe
Mother アガサ 愛の失踪事件 Agatha
ネイキッド Naked
不滅の恋 ベートーヴェン Immortal Beloved
ウド・キア
Udo Kier
Sadistic Sailor ヨーロッパ Europa
マイ・プライベート・アイダホ My Own Private Idaho
ドッグヴィル Dogville
ミッケル・ゴープ
Mikkel Gaup
Pits ホワイトウイザード Ofelas
スターダスト The Miracle
ローフ・ラガス
Roef Ragas
Pim De Schaduwlopers
フィル・マッコール
Phil McCall
Grandfather スピリット 傷だらけの栄光(未) The Big Man
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Robert Robertson
Chairman 刑事タガート Taggart (tv)
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